しゃべる、話す、という意味で飛騨方言では、そう、と言うのですが、語源は、そう言う、
なのでしょう。別稿の、活用・アクセントの点における考察、
各種古語動詞との対比検討などもご参考までに。
こうなって参りますと、そう、の語源は、そう言う、であろう
という考えは筆者にとっては最早、確信に近いものに
なりますが、途端にしらけてしまう方もありましょう。
ですから、本稿ではさらに理論固めをしましょう。
そう、という動詞の用例を考えられるだけ書き出すと、ある事実に
気づきます。
用例は、例えば、密告する・告げ口する・いいつける・あばく、
等々の意味の文がありましょう。
例文ですが、
そんな事をせると警察にそうぞ!
古い世代にとってこれほどパンチの効いた言い回しはないのです。
例えば急ぐあまりに赤信号で横断歩道を渡ろうとした、微罪ではあるにせよ道路交通法違反です。
どうせわかるまい賞味期限の切れた餅を売ろうとしたら、
見られてしまって、そんな事をしたら警察に通報するよ、と言われたら、
ははは冗談冗談、するわけないでしょ、手持ち無沙汰で商品の整理をしていただけよ、
などとごまかして取り繕おうとするのが人間でしょう。
つまりは、そうぞ!、とは
賞味期限が切れた餅を売る事は明らかな法令違反である。警察にそのようにいいますぞ。
(警察にそう言うぞ。)
という意味なのです。
以上が前置きでした。実は飛騨人は警察沙汰、裁判、などを極端にきらい、
どんな揉め事も、むらおさ・フィクサー、が立ち会って身内だけで話し合いで
決めてしまう、村のどんな行事も毎月の会合・寄り合い、ですべて話し合って
決めてしまう、という習性が身についているのです。
ですから例文は有り得ないような内容であり、文例としては不適切とすべきでしょうか。
もっとも悪童の佐七は先生の目を盗んでは悪事をたくらんでばかり
いましたから、目に余った同級生が
そんな事をせると先生にそいつけるぞ!
(悪い事はするな。先生にそのように言いつけるぞ。)
と私に投げつける文例は妙になまなましくて、
あまり思い出したくない佐七の小学生時代でした。
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