大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
げばす |
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飛騨方言をご存知ない方へ、飛騨方言に「げばす(自サ五(自動詞サ行五段))」という動詞があります。意味は、間違いをしでかす・失敗する、ですが、大失敗という意味で「おおげばし」などという名詞もあるのです。「げばす」のアクセントは中高で、「げばいてまう(=失敗してしまう)」におけるアクセントの滝は[ば]になります。どうやら俚言動詞らしく、方言学の文献を渉猟しても記載が皆無に近いのです。 語源が気になるのですが、私なりに[蹴外す(けはずす)]、つまりは、ミスシュートする、が語源だろうと考え、ざっと10年ほど前に幾つか寄稿していたのでした。つまりは・・ げばいた、の語源説紹介・げびた げばす、げばし、おおげばし 動詞“げばす”(失敗する)の語源 げばす、の語源に関する活用の点からの一考察 発見!これぞ、げばす、の語源今、読み返しても辻褄は合っているようなので、やはり真実はひとつ、語源は[蹴外す(けはずす)]で決まり、と言いたいところです。・・ところが、つい先ほどですが、『方言クイズをしてみた!【岐阜県民必見】【古代語!?】』 という動画を発見して、ええっ、と思いました。場所は 11:17 第9問[けばいとる]です。出演しておられるかたは岐阜市あたりのお住まいなのでしょう。飛騨方言では「げばいとる」ですが、美濃方言では「けばいとる」という事のようですね。語源が気になって、もう一度、手元の辞書を開いてみました。 まずは、山口仲美・講談社・暮らしの言葉擬音擬態語辞典ですが、・・ けばけば、行き過ぎなほどきらびやかで派手な様子、「けはけはし」が畳が毛羽立つ時の「毛羽」に弾かれて「けばけばし」と濁音化して、明治には下品な際立ち方を表すようになった。・・あたりが候補者でしょうか。ただし何分にも「けばし」は体言です。これを動詞に変化させるには、ふふふ、失敗してという意味で、まずは「げばしして」と言うようになり、これがいつの間にやら動詞連用形「げばして」と勘違いして使い始めれば、「げばす」という動詞が出現してしまった事になり、そうすればこれが五段活用できます。サイト管理人の屁理屈理論です。 続いては三冊の古語辞典ですが、 岩波古語辞典 けはし[険し]形シク けばや けばけばしいさま。派手で目立つさま。[義貞が装束ーに見ゆ。着かへよかし。]盛衰記20 げび「[下び(上一)][じゃうび(上び)の対]下品めく。十訓抄、浮・好色伊勢1 げびすけ[下卑助・下卑介]下卑た人の擬人名。近松・虎が磨(いしうす)・上 三省堂新明解古語辞典 けばけばし形シク (動作などが)ひどく目立つ。近松・三国志・三 けはし 同上 げび 同上 げびざう[下卑蔵]同上。京伝・通言総籬(読み)つうげんそうまがき げびすけ げびる[(下卑る)]自バ上一 品格が卑しく見える。十訓。心操41 旺文社古語辞典 けばけばし 同上 けはし 同上 げびる 同上体言が動詞になってしまったのでは、と考えれば「げびや」「げびすけ」「げびざう」も前述の「げばしして」と同じ説明が可能でしょうか。無理ですね。「げばしして」の場合は「しし」が「し」に変化したのでは、という事で、説得性は少しはありますが、どうにもこうにも音韻変化が説明できません。 形容詞が動詞になったのでは、という説はどうでしょうか。形容詞という品詞は元々は体言に接続詞がくっついてできたもの、という事ですから語幹は体言です。つまりは「黒い」は「黒」+「い」、従って、「けはし」が語源となれば、語幹の「げば」+「する」で「げばす」になったのじゃないか、などという推論が出てきそうですが、もはや落語「やかん」の世界ですね。 そろそろ、結論に参りましょう。本日のユーチューブ情報で、飛騨では「げばいとる」ですが、美濃では「けばいとる」である事が判りました。上方から言葉が伝番したとすれば、つまりは方言周圏論に従ったとすれば、美濃方言のほうが飛騨方言よりも古い言葉なので、古くに飛騨地方で「けばいとる」の濁音化「げばいとる」が生じたという事なのでしょうね。 さて皆様へ質問、私が俚言にこだわる理由は何でしょう。俚言とはその地方でしか話されない言葉なのです。方言学の学者様に教えていただくわけにも参りません。そんな事なんか知るかい、とお答えになるだけです。ところで飛騨の出身で方言学のプロといえば故・都竹通年雄先生(萩原町尾崎出身・元富山大学教授)おひとりです。ただし私が方言学をかじり始めたのが2004年、51歳の時からという事で、あまりにも遅くて、先生にお会いする機会を逸してしまいました。悔やまれます。私が出来る事は先生の御業績を読む事だけです。また先生は御幼少期が萩原町ですが、青年時代から没年まで、東京を中心に全国の方言研究をなさったかたで、つまりは萩原方言以外のご業績はありません。つまりは、私は孤独。どうせ消えゆく飛騨方言。そんなものを調べてなんの得があるのですか。でも俚言なので、飛騨(出身)の人間が興味を持って調べなくて、いったい誰が飛騨方言を調べてくれるというのですか。本当の結論、ゲバスの語源は、やはり[蹴はずす]でしょうかねぇ、ただし[毛羽]の可能性も無きにしもあらず。 |
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