大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム方言学<

あんにゃ

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佐七:ひょんな事でお知り合いになれました。キーワードはきんにょ・昨日、でしたね。今日はまた面白いお話をお聞かせしましょう。
麻奈:戦前生まれの母が、きんにょ、と言いますが、さすがに私は話しません。がしかし、今まで以上に飛騨の言葉というものに親しみがもてるようになりました。・・いずれ母を思い出す言葉になるのでしょうか。
佐七:ははは、いい事おっしゃいましたねえ。私は毎晩のように飛騨方言の原稿を書いていますが、実はほとんどが私の親の言葉です。子どもの佐七は、やはり話しませんね。ところで、今日の話題は、兄、です。あなたは何とおっしゃいますか。
麻奈:あに、ですね。佐七さんもでしょ。
佐七:ええ、勿論。あんさま、なんて言う事もありますが。敬語としては、にいさん、ですね。結局・・いざとなると、あがってまって、共通語しか話せんのやさなあ。
麻奈:ふふふ、ではそろそろ飛騨方言のお話をお願いします。
佐七:ほいきた。昨日の事を、きんにょ、という位のあなたのお母さんだから、あに、の事を、あんにゃ、とおっしゃるでしょ。
麻奈:そうですね。なんとなく判ります。今度、電話して見ようかな。
佐七:ははは、そうこなくっちゃ。電話なんてほんの一分で済む事ですものね。ところで、どうしてまた飛騨方言ではあんにゃ、なんて言うのでしょう。
麻奈:・・自信たっぷりのご質問ですから、佐七さんは答えを知っていらっしゃるご様子。
佐七:ははは、答えは無いんですよ。飛騨方言ですから、書かれたもの古い書物などありません。佐七が珍説を唱えて、なるほどそうかなあ、と思ってくださればよい。答えは佐七も知りません。が、笑わせる自信はあります。
麻奈:はい、じゃ答えをどうぞ。
佐七:まあ、そうお急ぎなさらずに。ところで飛騨方言で、あに、に敬称をつけると、何という言葉になると思いますか。
麻奈:ふふふ、先ほど、あんさま、って答えを佐七さんがおっしゃいましたが。
佐七:ありゃ、しまった。そうやったながいな。でも、そりゃ実ぁ部分解答なんやさ。そしゃ、飛騨方言の敬称を全部言ってみて。
麻奈:・・さま、以外にですね。ふーむ。
佐七:昔話でいきましょう、たぬきどん、は飛騨方言ですか。
麻奈:絶対に違いますね。
佐七:やはり、あなたは飛騨人です。敬称・〜どん、は 飛騨方言の敬称ではありません。いきなり答えですが、飛騨方言の敬称はたった三つ、さま・さ・ま、です。例えば飛騨方言なら〇、そうでなけば×という事で、おてらさま〇あんさま〇ねえさま〇郵便屋さ〇しゃかんさ〇(左官屋さん)ねえま〇(おねえさん)様、が最高敬語です。一字抜けて、さ、あるいは、ま、というとやや敬語の意味が低下します。がしかし、さ・ま、共に元々は、様、の意味。これが飛騨方言の敬称ですね。
麻奈:なるほど、それでは、あんにゃ、の種明かしをお願いします。
佐七:ほいきた。ですから、あに・兄+敬称・ま、で、あにま、といっても立派な飛騨方言です。ですからあにま>あんにゃま>あんにゃという音韻変化によって、あんにゃ、という飛騨の言葉ができたのであろうと言うのが佐七の主張です。
麻奈:あにま>あんにゃま、の音韻変化が生じた原因はなんでしょうか。
佐七:ほいきた。にni、がにゃ・nyaになったのは何故、と言う事ですが、音韻では直音・ちょくおん、が、拗音・ようおん、という事ですね。拗音のほうが人間は言いやすいのです。
麻奈:あんにゃま>あんにゃ、の変化が生じたのであろう理由は私にもわかります。結局は同じ意味だから、あんにゃ、というだけでも敬意はあるから、という事で最後の言葉を省エネで話さなくなっちゃったのですよね。
佐七:その通りです。おっと、言い忘れましたが、飛騨は浄土真宗の国、昔からです。農民が毎日となえていた浄土真宗・正信偈(しょうしんげ)です。その出だし、きみょう・むりょう・じゅにょうらい、の発想から きんにょう、という言葉が出来たのでしょう。そして、これが言いたい、至安養界證妙果・しあんにょうかいしょうみょうか=安養界に至って妙果を証せしむってこっちゃさ。 このあたりの発想から、あんにゃ、などと言う様になったのでしょうね。
麻奈:まんざら突拍子もない話ではない、飛騨の人間ならピピーンと来るのでは、と佐七さんはおっしゃりたいのかも。

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