飛騨方言を知らない方がすぐに気づかれるのがやはり一風変わった第一人称の使用でしょう。
オレは佐七です、と言わないで、おりは佐七や、といいます。
あるいは別の言い方としては、おりゃ佐七や、あるいは、おら佐七や、があります。
そして実は、おりゃ佐七や、という言い回しが一般的です。
では飛騨方言ではなぜオレではなくオリなのか
という疑問に対して以下に筆者なりの推察を記載します。
実は別稿・飛騨方言における助詞の「は」と「が」の使い分け
の通りですが、飛騨方言では助詞の「は」と「が」が明瞭に発音されない為です。
つまりは上代には、おれは、と三拍で発音されていたものが、やがて、おりゃ、と二拍で
発音されるようになったのでは、というのが筆者なりの推論です。
つまり飛騨方言に特有の短呼化というわけです。やがて、おり(ぃ)、という自分と言う意味の
飛騨方言単語が成立したという事なのでしょう。
この、おり(ぃ)、が更に進化すると、おら、になるのでしょう。
あるいは、おら、は実際にすでに使用されている言葉でしょう。
従って飛騨方言における、おりぃは佐七や、という言い回しは、
"おりぃ"という体言が成立後に近代に共通語の影響を受けて、助詞をはっきりと
発音するひとが増えてきた結果できた言い回しという事になります。
二拍が三拍に逆戻りしてしまった現象、と言い換える事ができましょう。
また、なぜ故に"〜りぃ"なのかという疑問ですが、例えば"わたし"という単語を
考えてみてください。共通語に近い表現として、わたしゃ佐七や、という言い回しが
ある事から類推できるように、S音+W音、の二拍は短呼化すれば、しゃ、に
なる法則がある事に気づきます。
同様にしてR音+W音、の二拍は短呼化すれば、りゃ、になります。
従って、飛騨方言では第一人称はなぜオレからオリに変わったのかは
短呼化で説明がつきます。言い換えますと、しゃべりやすいから、というのが結論です。
この際は、行けば(いきゃ)、打てば(うちゃ)、来ねば(こにゃ)、問へば(とや)、混めば(こみゃ)、
来れば(くりゃ)、等の飛騨方言例も記載しておきます。
ついでです、うたいやすいから、と言う事で、
真室川音頭(山形)をご紹介します。
この民謡を私の祖母・とよ、が私の子守唄代わりによく独唱してくれました。
わたしゃ真室川の梅の花♪(はぁ)こーりゃあ♪
あなたまたこの町の鶯よ♪
花の咲くのを待ちかねて♪こーりゃあ♪
つぼみのうちから通うて来る♪
ですから、飛騨方言の第一人称はなぜオレではなくオリなのかという
疑問が涌いた時、とよばあちゃんの真室川音頭から佐七
は答えにすぐに気が付いたんですよ。
但し彼女は生まれも育ちも飛騨なので常に自身を、わたしゃ、ではなく、おりゃ、といっていた
事は書かずもがな。
別稿・飛騨方言における第一人称代名詞・おりぃ、に関する一考察
を参考までにどうぞ。しゃみしゃっきり。