大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

がんもんじ(=タンポポ)

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私:方言量が多い語彙と言えば、基本的な生活語彙、野山の草、動物、子供の遊びなどだが、タンポポもそのひとつだ。飛騨方言・くじなの事は既に書いたが、飛騨方言に、がんもんじ、もある。
君:がんもんじ、は聞いた事が無いわね。
私:タンポポの若葉の事で、うでて食用とする。平成・令和の時代には食材とは言い難く、戦前辺りの飛騨の農村生活を思い浮かべてくれ。
君:要は死語ね。それは置いておいて、この言葉の語源ね。ウワォ、判明したのね。
私:道楽というかなんというか、あれこれ資料を買い漁った。今回に登場いただくのは八坂書房・日本植物方言集成。千頁に及ぶ辞典だが、タンポポについては、ざっと二百の方言、三頁に渡りギッシリと方言が書かれていた。残念な事に、がんもんじ、の記載無し。
君:それでは収穫ゼロじゃないの。
私:こんな事で驚くな。続いてはネット検索に移ったが、これもなんとヒットゼロ。つまりはこの記事がこの世の唯一の情報源という事になる。どんなもんだい。
君:語源をキチンと示さなきゃ駄目よ。
私:小学館・日本方言大辞典には、かんもじ・がんもじ、があった。これの見出し語が、ガンボージ。つまりは飛騨方言「がんもんじ」の語源は「がんぼうじ」である事がわかる。蛇足ながら、日国には「がんぽうじ=たんぽぽ蒲公英《方言》」の一行の記載がある。
君:なるほど。「がんぼうじ」が全国共通方言で、飛騨方言「がんもんじ」はその音韻変化である、というところまで判明したのね。
私:正にその通り。八坂書房・日本植物方言集成に戻るが、「がんぼうじ」に由来する音韻変化は、かんぽ(長野、静岡)、かんぼ(新潟、長野)、かんぼー(長野)、かんぼーじ・かんぽーじ・かんぽーし(山梨)、がんぽーじ(神奈川、長野、山梨)、がんぼーじろ(岩手)、がんぼーじろ(岩手)、がんぼーそー(青森)、かんほじ・がんほじ(神奈川・長野)、以上だ。ここに飛騨方言「がんもんじ」が加わる訳だが。こうなってくると語源は最早、明らかだよね。蛇足ながら角川古語大辞典全五巻を始めとして古語辞典には「がんぼうじ」は一切、出てこない。
君:東日本に集中した方言という事ね。
私:正にその通り。和語というよりは古代において消滅した日本の言語、臆面なく書かせていただくならばアイヌ語あたりであろう。論拠は東日本という広域方言であるにも拘らず古語辞典に無いという点。
君:さあ、それはどうかな。方言区画的には東山方言といったところかしらね。
私:いや、もっと広い範囲だね。東北に残滓があるわけだから。だからアイヌ語。というか、日本語に於ける北方系の言葉という事。古代から日本と言う国には在来種(日本タンポポ)が咲いていた。原産はユーラシア大陸。
君:そうなのね。ところで私、一つだけ気づいた事があるわよ。
私:えっ、どういう事?
君:「も」の音韻は飛騨方言だけ。
私:なるほど、そういう意味なら音韻学的には「かん」と「ほし」が語基という点も丸わかりだね。古代において飛騨方言に「かんほし」という音韻があり、一千年以上の時を経て「がんもんじ」に音韻変化したという意味だな。
君:ええ、ところでネットでアイヌ語検索もできるわね。
私:例えば単語リスト(アイヌ語・日本語)によれば「かん」は上の意味で決まり。「ほし」がどうもはっきりしない。
君:第一ラウンドはここまでね。ほほほ

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