別稿の通りですが、ずつない、せんない、
てきないの三形容詞ともに体が苦しいという意味ですが、
飛騨方言では、ずつない、と、てきない、が共に使用され、せんない、
はあまり使用されません。
今、ささっとネット検索をしてみた所、ずつない、は名古屋方言、大阪方言に
代表され、西日本に多いようです。
また、てきない、は福井方言、富山方言に多く、北陸地方で主に話されているようです。
せんない、は山口県からの発信が多く同県を代表する方言のようです。
一つ大変に気になる点ですが、富山弁ゼミナールさんによれば【てきない】
の語源について
"江戸時代の方言辞書の『物類称呼』をみると
「労して苦しむことをせつないといひじゅつないといふを加賀にててきないと云」と説明してある。(原文のまま)"
を根拠にしていらっしゃる事です。
富山方言から飛騨方言を見ますと、ふーむなるほどそうかもと一瞬、考えてしまいます。
飛騨方言は名古屋の影響が大きく、西日本、名古屋で話されるずつない、という言葉が
飛騨川を遡って飛騨にもたらされたのでしょうか。
また富山、金山、福井で話されている、てきない、という言葉が神通川を
遡って飛騨にもたらされたのでしょうか。
つまりは飛騨方言は表日本の言葉・ずつない、と裏日本の言葉・てきない、が
共に話される地方なのです。
従って筆者・佐七の仮説は『物類称呼』を良しとして、
近畿において古語形容詞・術なし、が
一方は北陸に伝播し、てきない、に変化し、
一方は東海道に伝播し、ずつない、に変化したのではないかと言う事です。
この二系統の言葉の共通終着駅が方言周圏論に言う
飛騨地方なのであろうと筆者は推察します。
別稿・幻の方言東西境界線、
飛騨方言は日本のへそ、の主張ともあわせ、飛騨方言は
尾張方言・表日本の方言と富山方言・裏日本の方言のキメラ(ハイブリッドではありません)である事が
ご納得いただけるのではないでしょうか。
となれば、てきない、の語源はやはり、術なし、でしょうかね。
てきない、の語源は大儀ナリのようです。以下をご参考までに。
飛騨方言・てきない、の語源発見物語
飛騨方言・てきない、の語源発見物語(続)
なお残る飛騨方言・てきない、の成立の謎
飛騨方言・てきない、の文学史的考察